2次元デスクトップシステムから、3次元のそれへの移行が始まる。
Windows Vista、
XGL、
Looking-Glassは、まさにそれらを代表するものだ。
ただし、これらへの評価は比較的手厳しいものがある。
「ウィンドウをzオーダで配置できるからって何だって言うのよ?」や、
「デスクトップがグルグル廻って、どんな生産性の向上があるの?」とか、
まぁ、当然な批評が乱立している。
もう少し考えてみよう。
2次元デスクトップにおいて、
最も重要な役割を握っているのはポインティングデバイスである。
アイコンは、象徴的なデータ集合として、あるいは記号的なオペレーションコードとして、
ポインティングデバイスからの誘いを待っている。
ポインティングデバイスは、現行では、多くの場合マウスである。
マウスは、現実の鼠と同様に、地面に腹を擦り付けながら移動する。
マウスは、現実の鼠と同様に、空を飛ぶことはない。
マウスを右に移動させてみて欲しい。
そう、モニタ上のポインタは、右に向かって動く。
マウスを手前に引いてみて欲しい。
そう、モニタ上のポインタは、下に向かって動く。
下に向かって「動いてしまう」のである。
本来であれば、手前に向かって動くはずのポインタが、
下に向かって動くのである。
「下に動くのはあたりまえでしょ、何言ってるの?」
と思った君は正常かもしれない。
もう少し考えてみよう。
作業机の暗喩としてのデスクトップは、
究極的には暗喩ではなく、作業机そのものとなるはずである。
アナログな作業机を仮想的に空間上に配置し、
それを何らかの入力デバイスにより操作することになる。
例えばそのデバイスがマウスであった場合、
マウスを手前に動かしたら、ポインタは手前に動くはずである。
決して、下に動くことはない。
「そうなったらマウスは使わないんじゃないの?」と言うかもしれない。
マトリックスにおいて、ネブガドネザルがザイオンに帰還する際に、
ザイオンの管理オペレータが3次元空間上のウィンドウに触れているシーンを覚えているだろうか。
あるいは、
マイノリティ・リポートにおいて、プリコグの予言記憶の中から、
3次元空間上に現れた映像を取捨選択しているシーンを覚えているだろうか。
確かに、マウスは使ってない。
彼ら/彼女らは、直接に自身の手で、仮想的なオブジェクトを操作している。
さて、3Dデスクトップに話を戻そう。
例えば、Windows VistaのAeroGlassを見てみよう。
Windows XPとほぼ同様のインタフェースである。
フォルダの中にアイコン、アイコンを指し示すポインタ。
異なっているのはそれらが3次元オブジェクトとして管理/描画されている点だ。
よって、当然ながら、アイコンは3次元オブジェクトである。
ということは、アイコンにポインタを合わせるということは、
3次元空間上をポインタが移動するということである。
ポインタを移動させるのは、つまるところマウスである。
ところが、マウスは2次元座標を移動するポインティングデバイスとして設計されている。
簡単に考え付くのは、空飛ぶマウスを作ることだ。
上下にも動くように作ればいい。
だが、ここで問題になるのが、
マウスは手間に引くとモニタ上のポインタが下に向かって動くことだ。
マウスが3次元の位置を取得するようになった場合、
マウスを手前に引いたら、右手座標系で考えると、
ポインタをz軸のプラス方向に進ませなくてはならない。
マウスの挙動が、全く異なったものとなってしまうのである。
だから、現行/近行の3次元デスクトップは中途半端なものにしかならない。
これまでのマウスを利用した2次元のユーザインタフェースから、
違和感なく3次元のユーザインタフェースへ移行させるには、
z軸をx軸やy軸よりもアクセスし辛いものとしておかなくてはならない。
そうでなくては、ユーザは混乱してしまう。
だが、やがては3次元上の座標をポイントするようなデバイスは、必ず必要になるだろう。
それがセンサーのついた手袋のような肉体を延長する機器なのか、
はたまた3次元空間を飛び回るマウスなのかはわからない。
ただ、実用化を考えるとマウスが先行するに違いない。
翼の生えた鼠は、デスクトップにどんな夢を見せるのだろうか。