2006/02/27

残された香り

京の2月は穏やかで、
新幹線の乗車前と乗車後の気温の差で
季節を3つくらい戻ったような気がする。
JR線に乗り換えて、
僕の友人が昔に住んでいた駅で降車する。
小さな駅だったし、加えてバス移動が多かった僕は、
あまりこの駅を利用したことはない。
目の前にある大きな電気屋は、
知らない内に赤い看板が緑になっている。
僕がまだこの電気屋を利用していた頃から、
この電気屋は経営が文字通り赤だったらしく、
最終的に緑になったのは看板だけだったようだ。
当時は鬱陶しいだけだったテーマソングを思い出して、
その無茶苦茶な歌詞を少しだけ懐かしむ。
ここからならタクシーでも初乗料金で済むだろうと思い、
愛着のあるMKタクシーを選んで乗車する。
目的地が少しずつ近づく。
6年間見続けてきた景色が広がる。
僕は少し歩きたかったので、
目的地より徒歩10分ほどの場所で降車する。
ほんの少し歩くと、
最高の珈琲でもてなす最高の喫茶店見える。
何度も寄ろうか寄るまいか悩んだが、
ここへは妻と来ないと意味がないような気がしたので、
マスターが元気でやってることだけ横目で確認する。
陽気にグラスを拭いている横顔がある。

細い路地を抜けた先にある「東門」に、
「おかえり、304851の卒業生の内の1人」と言われたような気がした。

まったく当然のことなので、
あまり大きな声では言えないが、
僕の目的地はやはり存在した。
僕が6年を過ごしたこの場所は、
僕がいようがいまいがお構いなしに、
この場所にあり続けていた。
例えば視覚で言うならば、
そこにあるものが反射する光を、
僕の水晶体の奥に構える視神経が受け取り、
そこにあるものを「そこにある」と僕に思わせる。
ところが、僕が観測せずとも、
この場所はこの場所にあり続けた。
そのことに、馬鹿げているが、驚いた。

だが、僕がこの場所を観察していない間、
この場所の時が止まっていたならば、
あるいはこの場所が存在していなかったなら、
僕はそれに満足したのだろうか。

ある友人と再会した。
元来の面倒臭がりの僕が、
自分から連絡を取った人の1人だ。
懐かしの学舎の前で話しながら煙草に火をつける。
彼もそうしようとして取り出した煙草は、僕と同じ銘柄だった。
今となってはあまりにも有名になってしまった煙草、BlackStone。
彼は「影響を受けまして」と言っていた。
僕がいなくなったこの場所で、
僕の代わりにBlackStoneの香りを、
彼はこの場所に留めておいてくれていた。
それが無性に嬉しかった。頼もしかった。心強かった。
一方で、僕の残したものが確かにここにあったことが、
僕のくだらない自尊心を満足させると同時に、
それがくだらないことにも気付かせた。

彼は今年で卒業になる。
もう僕の知る限りでは、BlackStoneの香りを残す者はいない。
だが、そんなことはもう、どうでもいい。


posted by SuZ at 00:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | Memorandum

2006/02/15

「つけた電気は消しなさい」

もう2年程前になるだろうか。
僕の家族が液晶テレビとHDDレコーダを購入した。
「大きいね」、
「綺麗だね」、
と、感想を漏らしていたが、1点、
「起動が遅いね」
とも言っていた。

LonghornことWindows Vista(以下、Vista)は、
DirectX3Dをふんだんに(無駄に?)利用したUI体験やら、
仮想フォルダやら、素敵なデスクトップサーチやら、
何かと話題の多い次のメジャーバージョンのWindowsである。

さて、君のOSがWindows XPであるなら、
画面左下のスタートボタンを押してみよう。
スタートバーが表示され、その右下、
「終了オプション」とラベルの貼られたボタンがある。
Windows XPを終了するなら、
これをクリックして「電源を切る」をクリックだ。
「つけた電気は消しなさい」だ。
だが、どうしてこんなにも深い階層にあるのだろう。
操作は、
「スタートボタン」→「終了オプション」→「電源を切る」。
深い。
自前でシャットダウンバッチとか作ってる人もいるかもしれないが、
まぁ、それは例外として、深い。
Windowsの開発者がそう考えていたのかどうかは知らないが、
Vistaにて、この手順を1つだけ縮めてくれた。
操作は、
「スタートボタン」→「スタンバイ」。
そう、スタンバイ。
ちなみに、Vistaでのシャットダウンまでの操作は、
「スタートボタン」→「終了オプション」→「電源を切る」。
深い。

ご存知の通りかどうかは知らないが、
Windowsには、3種類の「終了」方法がある。
スタンバイ、ハイバネーション、シャットダウン。
スタンバイは、メモリは通電したままなので、高速復帰。
ハイバネーションは、メモリ情報をHDDにそのまま格納するので、割と高速復帰。
シャットダウンは、メモリ情報を破棄してるので、かなり鈍足復帰。
興味があれば調べて欲しいが、
だいたいこんな感じになる。
多くの人は、
「つけた電気は消しなさい」の精神から、
シャットダウンを選択している。
そして、Windowsの長々とした起動を毎回待つことになる。

ブラウン管テレビの起動にかかる時間は、
画面にぼんやりと視認できるようになるまでおよそ2秒弱。
VHSビデオデッキの起動にかかる時間は、
テープを飲み込めるようになるまで、およそ1秒強。
液晶テレビの起動にかかる時間は、
画面にぼんやりと視認できるようになるまでおよそ4秒弱。
HDDレコーダの起動にかかる時間は、
DVDを飲み込めるようになるまで、およそ4秒強。
Windows XPがスタンバイからの起動にかかる時間は、
ログイン画面が表示されるようになるまで、およそ1秒弱。

最近では、VIIVプラットフォームの宣伝もあり、
「家電としてのPC」というスタイルがより一般的になろうとしているようだ。
一方で、旧来の家電たちは良くも悪くもPCの影響を受け、
「PCとしての家電」というスタイルに向かおうとしている。
IPv6が全盛になり、コタツにNICが取り付けられるようになる頃、
「コタツの起動時間」を真面目に考えることがあるかもしれない。
「蛍光灯の起動時間」を真面目に考えることがあるかもしれない。
そうなったとき、「つけた電気は消しなさい」は、
電気の流れを止めることではなく、
電気の流れを弱めることを意味するようになる。
そうなったとき、「つけた電気は消しなさい」は、
象徴的手続的終了を意味するようになる。
posted by SuZ at 00:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | Machine

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